轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
すぎこ
杉子
宮本 百合子
「新女苑」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,552 字 · 19 页
が、毬子はそれきり黙っている。杉子は、次第に焦立たしい心持がして来た。
「何か置いて行かなかったかしら」
「格別用もないらしかったよ」
また母はそれきりで黙っている。
不自然な苦しい気がこみあげて、杉子はそこに放り出してあった帛紗をとりあげ、端っこでふりまわしながら自分の部屋へ出て行った。
伊田が上って行ったのかどうか、そんな謂わば下らないことだって、母はほかのひとのことなら、自分で知らず識らず話す。そういうひとなのに、伊田のことについてはいつも特別口数少く、冷淡らしくした。
去年の秋、従姉の雪枝の新婚早々の誕生日の集りで杉子は初めて伊田に会った。雪枝の良人と同じ会社の後輩で、政経を出たのに劇に興味をもっていて、そういうグループをもっていた。雪枝は半分からかうような派手な口調で、
「杉ちゃんは、グレゴリー夫人みたいな仕事がしたいんですって」
と、紹介した。杉子は思わず赧くなって、
「いやだわ、そんな。私そんなこと云ったことないじゃないの」
むきに否定した。雪枝はグレゴリー夫人のことも日本のこともよく知らないからこそそんなことが軽々しく云えるのだ。杉子はそう思った。