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むらいちょうあんないれのからかさ

村井長庵記名の傘

国枝 史郎

「ポケット」1925(大正14)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,794 字 · 16 页

青空文庫

それに嚇されて大の男が見す見す剥がれると云うことだ」

「江戸は恐ろしゅうございますなあ」

「恐ろしいとも恐ろしいとも、だからなかなか容易なことでは、人が人を信じようとはしない。連れて大金の遣り取りなど、滅多にないものと思うがいい」

「いやもうごもっともでござります」

「この長庵が仲に入り、せっかく弁口を尽くしたればこそ、松葉屋半左も信用して、六十両渡したと云うものさな」

「お有難う存じました。もうもう嬉しくて嬉しくて」

「そんなにお前嬉しいか?」

「嬉しいどころではござりませぬ」

「ふうむ、しかし、ナア十兵衛、嬉しい有難いと口だけで云っても、形がなけりゃ変なものさな」

ギロリと眼を剥きズッシリと云う。

「へ、形と申しますと?」

「形は形、それだけよ、他にどうも云いようはねえ」

「へえ」と云ったが田舎者、十兵衛には謎が解けそうもない。

「実はな、お前とこの俺とは義理ある仲の兄弟だ、俺の妹がお前の女房、だからお前が江戸へ出て来て、俺の家で草鞋を脱ぎ、五日と云うもの食い仆し、それ駕籠賃だ、やれ印判料だ、ちょくちょく使った小使銭、そんな物を返せとは云わねえ。何の俺が云うものか。