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とうきょうようさい

東京要塞

海野 十三

「サンデー毎日」毎日新聞社、1938(昭和13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,341 字 · 37 页

青空文庫

明日の朝は――これはえれえことになったぞ」

五郎造はぶつぶつ独白をいっては、腹を立てていた。吉治の怪我で、彼はなにか大変困ったことに直面しているらしい様子だった。

生命救助者を装う髭蓬々の男は、濡れていた半纏が乾いたというので、これに着かえながら、そろそろ暇乞いをする気色に見えた。

「おう、もうお帰りですかい。そうだ、お前さんの名刺を一枚下さいな。お礼にゆかなきゃなりませんからね」

すると半纏男は笑いながら、

「お礼には及びませんよ。それに、私は名刺なんか持っていないんです。月島二丁目に住んでいる正木正太という左官なんです」

「ええっ、左官。するとお前さんは、近頃のコンクリート工事なんかやったことがあるのかね」

「ええ、すこしは覚えがあるんですが、大した腕でもありませんよ。なにしろ仕事がなくて、毎日、あっちこっちをうろついているのですからね」

「ふふーン、そうかい。そういうことなら、正太さんとやら、わしは一つお前さんに相談があるんだがね。いや、もちろんうちの者を助けてくれたお礼心から、ちとばかりお前さんに儲けさせようというんだ。実はね、ま、こっちへ来なさい」