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とうきょうようさい
東京要塞
海野 十三
「サンデー毎日」毎日新聞社、1938(昭和13)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,341 字 · 37 页
と五郎造は正木正太を病院の廊下へ連れだした。深夜のこととて他に面会人も歩いていず、そのあたりは湖水の底のようにしーんと鎮まりかえっていた。
「こいつは他言して貰っちゃ困る。お前さんだから、信用してうちあけるんだが――」
と前提して、五郎造親方は、いまやりかかっている或る秘密の土木工事があって、そこへ働きにゆく気はないか、なにしろ人員は厳選してある上に、一人足りなくても先方から喧しくいわれるのだ。今夜吉治が怪我をしてしまったため、明朝は左官が一人足りなくなる。そのために先方からどんな苦情をうけるかと思うと、彼は気が気でないのだと包み隠さずにいって、この寒中に額にびっしょりとかいた汗を手巾で拭った。
「幸いお前さんが、左官をやれるというから、これはもっけのことだ。これも因縁だと思うから、一つやって見ては」
「でも、なんだか気味がわるいですね。秘密の工事なんて」
「いや、そう思うだけのことで、やっていることは普通の工事なんだ。ただ行くときと、帰るときに、目隠しをされるというだけのことさ。手間賃は一日七円だ。普通の倍だぜ」
「だって、いくら吉治さんが怪我でゆけないとしても、全然新顔の私が行ったんじゃ、先方で入れないでしょう」