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まつかぜのもん
松風の門
山本 周五郎
「現代」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,862 字 · 26 页
「なにを思いついたのだ」
「はあ、それが、申上げますと恐らく」八郎兵衛は恥かしげに膝を撫でた、「お上はお笑いあそばしましょうから」
「他人に笑われるようなことか」
「みんな笑いますので、誰も真面目に聞いて呉れませぬので弱りました、実は、達磨が面壁九年に大悟したと申します、むろんお上にも御承知でござりましょう」
「それがどうした」
「九年の面壁で、達磨はなにを悟ったのでございましょうか、私はふとそれが知りたくなったのでござります、お上にはお分りあそばしましょうか」
「知らんな、大学はどうだ」
宗利は笑いながら振返った。朽木大学は黙って八郎兵衛の顔を瞶めていた。
「誰にたずねましても笑われるばかり、致方なく自分で試みる決心をつけまして、白狐の窟に籠ったのでござります」
「それで達磨の悟が分ったのか」
「はあ……」
「ばかに早いではないか、どう分った」
八郎兵衛はちょっと黙っていたが、やがて同じような平板な口調で答えた。
「面壁九年ののち、達磨は結跏を解いて起ちながら、かように申したと存じます、なるほど、ただ睨んでいるだけでは壁に穴は明かぬ」
「なに、もういちど申してみい」
「睨んでいるだけでは」