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まつかぜのおと
松風の音
和辻 哲郎
「心」1961(昭和36)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,465 字 · 3 页
時は真夏の午後、三、四時ごろである。二人は何も言わない。ただ時々、パチッパチッと石を置く音がする。
わたくしにはこの寺がどこであるか解らない。また碁を打っている住持と地主が誰であるかも解らない。しかしいつのころからか、松風の音を思うと、そういう光景が頭に浮かんでくる。碁石の音が、何か世間に超然としている存在を指しているように思える。松風の音はそういう存在の伴奏なのである。
わたくしの子供の時分には、こういう住持や地主が農村の知識階級を代表していた。その後半世紀を経たのであるから、そういう人たちはもう一人も残っていないであろう。たといそういう種族のうちで生き残っている人があるとしても、そういう生活の仕方は、もう許されなくなっているであろう。しかしああいう存在はあっていいと思う。あれもギリシア人のいわゆるスコレー(ひま)を楽しむ一つの仕方であろう。