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そめきちのしゅぼん

染吉の朱盆

国枝 史郎

「サンデー毎日」1927(昭和2)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,824 字 · 35 页

青空文庫

と、もう姿が見えなくなった。岡八、屋敷へ忍び込んだのである。

その翌日のことである。

「兄貴家かえ」とやって来たのは、他ならぬ岡引の半九郎であった。

「昨日出たきり帰らないよ」

こういったのは岡八の女房、鳥渡仇めいた女である。

「兄貴としちゃァ珍しいね」

「私も心配しているのさ」

「で、矢っぱりご用でかい?」

「半九郎の奴に鼻あかせてやる、こういいながら出て行ったよ」

すると半九郎笑い出してしまった。

「アッハハハこいつァ面白え。少し兄貴も若耄碌をしたな」

「なぜさ?」とお吉――岡八の女房――怒ったようにきき返した。

「ナーニこっちの話でさ。……あそれじゃあ姐御、また来やしょう」

往来へ飛出したが吹出してしまった。

「あの物語りの謎解きをしようと、探ぐりに出たとはどうかしているよ。岡八の兄貴もヤキが廻ったなあ。そんな年でもない癖に」

その翌日のことである、またも半九郎尋ねて来た。

「姐御、兄貴はお家かね?」

「それがさ、半さん、どうしたんだろう、いまだに帰って来ないんだよ」

お吉の顔に憂色がある。

「へえ」といったが半九郎も、眉の間へ皺を寄せた。

「おかしいなあ、何んてえことだ」