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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
それに、あそこの院長はんが親切なお人で、何んでも廉うしとくれやはるんさかい。
「そんなら十円あれば、まあええのやな。
そう云うわけやったら私も、どうぞして十円ずつは出してもらうようにしよう。
「出してもらう? 誰にえ。
「月に十円ずつ出しとくれやす人はなかなかあらへんのやけど、放とくわけにも行かん故、間が悪いけど、川窪はんに出いてもろうと思うとるんえ。
外に誰ぞ、ええ人があるやろか。
「さあ。
ほんま云えば、川窪はんへそな事云うて行かれんわなあ、父はん、
私が、不首尾な戻り様したのやから、あの奥はんもさぞ気まずう思うといでやろから……
でも此家へ来て間もなく、挨拶かたがた詫に行たら、どこぞへ行きなはるところやったが、物を祝っとくれやして、いろいろねんごろにしとくれやはったほどやから、うちで思うとるほどでもないかもしれんが……
「な、そうきめよ、
外にしようがあらへんやないかい。
「そうやなあ。
恭二が、ムクムクとしたので、云いかけた言葉をお君は引こめた。
疲れて居る栄蔵は、一寸の静けさの間にすっかり眠ってしまった。
お君は、暗黒い中で、まざまざと彼の時分の事を思い浮べた。