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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
あの時は、まるで、どうも出来ないほど辛いと思って居たが、今思うと、ほんに何でもない事だったと思うと、
「姑のある家へ行ったら、なかなかこれどころではないものだよ。
と主婦がよく云って居たのに思いあたる。
物事をよく条だてて行く、男以上に頭の明らかな主婦が、自分が今日こうやって、こんな事になやまなければならない運命を持って居ると云う事を胸の中に知って居て、
「人間は、いつどこで、どう世話になったり、なられたりするか分らないものだから、不義理はして置けないものだねえ。
と立つ朝何気なく、他の話に取り混ぜて云ったのではあるまいかとさえ気を廻した。
自分の愚かさから、いつでも行く先へ網を張る様な事を仕出来して、お君は、淋しい、やるせない涙を、はてしない夜の黒い中に落して居た。
(四)
栄蔵は翌る朝早く川窪へ行くと云って、来た時の通りの装で出かけた。
半分はもう忘れて居る道を、何としたのか沢山の工夫が鶴端をそろえて一杯に掘り返して居るので、目じるしにして来た曲り角の大きな深い溝も、御影石の橋を置いた家も見失って仕舞った。
交番さえも見つからずに、あっちこっち危い足元でまごついて居る間に、馬子に怒鳴りつけられたり、土をモッコにのせて運ぶ十六七の若者に突飛ばされて、