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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
翌日馬場の家へ行って、いろいろの事を聞いて来た栄蔵は、その次の日からせっせと山岸の家へ足繁く往来し出した。
役場の仕事もある事だし、複業にして居る牧牛がせわしかったりして、山岸の方へもあまりせき込んだ話はして居られないので栄蔵が仲に入った方が結局都合が好かった。
自分の職業上、相当に位置のある家から、あまり快い感情で遇されない事は、あまり喜ばしい事ではなかった。
始めの間は栄蔵もお節も山岸とはかねがね知り合いの間だから却って話もちゃんちゃんとまとまって行きそうに思って居たが、面と向って見ると、まるで見知らぬ者同志の話よりは、斯うした事は云い出し難かったりして思うほどの実も挙らなかった。
それにまして栄蔵の方が幾分身分が下だと云う事も先方の心に余裕を与えた。
山岸では二三年前に、東京の法律学校を出た息子が万事を締って、その批判的な頭で生活法を今までとは善い方にも悪い方にも改めた。
山岸の御隠居はんと呼ばれて居る政吉は、二言目には、
「私はもう隠居なんやから、何も知らいてもらえんのえ、やや子と同じや云うてな。
息子の大けうなるもええが、すぐ隠居はんに祭りこまれて仕舞うさかい、前方から思うとったほど善い事ばかりではあらへんなあ、ハハハハ。