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けいまのげんそう

桂馬の幻想

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第一六号」1954(昭和29)年12月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,784 字 · 28 页

青空文庫

山上へ登りきると、うまいぐあいに裏手の畑で働いている男の姿を認めた。彼のセーターをきて野良をたがやしているのである。茶店の前をよけて畑へまわり、男の前へ立ってみると、まさしく木戸ではないか。木戸は彼を認めると、落ちつきはらって、笑った。さすがに勝負師のずぶとさであった。

「きのうお見えの噂をうけたまわっておりましたよ。よくわかりましたね」

「キミの奥方のカンバセにボクも四五桂を読んだのでね。もしやという不安がわいたのさ。御達者で何よりだ」

「もう世をすてました。お目にかかっても、何も申上げる言葉がないんですが」

「しかし、四五桂から同棲のコースは、ありうるとは思ったが、意外であったね。文士にとっても、やや意外だね」

「そうですか。ボクにはそれほどのこともないのですが。ボクは盤面の四五桂に錯覚し、次の対局ではペシャンコでしたが、ここの四五桂には錯覚がありませんでした。盤面に見切りをつけるのは当然じゃありませんか。ここに故郷を見出すのも当然なんです。むしろ宿命的ですよ。きわめて素直なコースです」

「しかし、オヤジサンの死は病死だというじゃないか」

「むろん、病死です。