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けいまのげんそう
桂馬の幻想
「小説新潮 第八巻第一六号」1954(昭和29)年12月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,784 字 · 28 页
長居は無用に見えたので、野村は最後にこうきいた。
「将棋ファンの中にはキミの消息を知りたいと思っている人も少からぬ数だ。と思うが、いつか棋界に復活する気持はあるだろうか」
「それについてお答えするよりも、ボクがこの地に生きながらえていることを忘れていただきたいということがボクの唯一の希望なんですがね」
「その御希望にはそうつもりだが人の心は変りやすいものだから、心変りにも素直に順応したまえ。ふるさとが一ツとは限らないさ」
野村はこう云いすてて別れをつげた。娘占い師はついに無言であった。
★
翌日、野村は娘占い師の訪問をうけた。部屋へ招じ入れてみると、彼女は丸太ン棒の言葉と発言とのほかに、やや適度な言葉づかいを心得ていることが判ったのである。三ツ指ついて挨拶することも知っていた。
「ずいぶん礼儀の心得がおありですね。ふだんそれを用いているのですか」
こうひやかしても悠々と動じる色もなく、うなずいて、
「先祖代々の商売だから小さい時から仕込まれてね。三ツの時からミコの踊りも神前の礼儀も仕込まれたものさ。占いには威厳がいるし、ニワサの術も親代々。