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けいまのげんそう

桂馬の幻想

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第一六号」1954(昭和29)年12月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,784 字 · 28 页

青空文庫

「キミは彼女、彼女ッて、そんな云い方をしていいのかい」

「それはいいですとも。表現は何ほどのものでもありません。ボクにふさわしい表現しかできないのは当然ですから」

「つまり実体は女房なんだろうね」

「肉体は何ほどでもないですよ。肉体的に女房であることは確かですが、ボクにはむしろ母親であり、祖母ですね。母親であり、女房であり、また処女ですよ」

「しかし、キミは肉体的にはハッキリ亭主なんだろうね。くどいようだが、ハッキリ云っておくれ。オレは都会の虫ケラだから、こういうことはハッキリ云ってもらわないと迷うんだよ」

「それはハッキリ亭主ですとも。しかし、肉体上の関係は、精神的な関係とはツナガリがないものですよ」

「そういうものかね」

「そういうものです」

「彼女だけについてはね。オレもそんな気がしてきたからね。まったく先祖の大婆サンに会ってるような気がしてきたからさ。しかしどうも、変な世界があるものだね。あの振袖まで先祖の大婆サンの衣裳のように見えてきたから奇妙じゃないか」

「あなたはさすがに物分りがよろしいです」

そこへ振袖の大婆サンがイモのふかしたのを運んできてくれた。