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とうりんどうのさとうづけ

桃林堂の砂糖づけ

中谷 宇吉郎

「あまカラ 第118号」甘辛社、1961(昭和36)年6月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,306 字 · 5 页

青空文庫

しもたや風の表も、なかなか感じがよい。

奥の座敷に通された一行の目の前には、簡素な庭があって、立派なザボンの木が一本繁っていた。大きいザボンがたくさんなっていた。

サラ・リイの主人は、窮屈そうに、畳の上に坐り、初対面の挨拶をした。抹茶をすすめながら、この家の主人は、いろいろと、この自家製の砂糖づけの苦心を語り出した。

材料は、いちじく、杏、金柑、グレープ・フルーツの皮など、果物はもちろんであるが、その他にも、野菜に重きをおいているそうである。一番苦心をするのは、自然の香気を、いかに保存するかという点で、それには、何よりも新鮮さが肝腎であった。香気はもちろんのこと、色にも一切人工のものは加えない方針なので、頼るところは、品質と新鮮さだけである。

野菜は、蕗、茄子、人参、セロリー、蓮根、わらびなど、ほとんど全部の野菜を、砂糖づけにしているが、旬の時期は、一カ月くらいしかない。果物の方も同じことである。一番困るのは、この点であって、一定の材料がごく短期間しか供給されないのでは、工業生産の方式は採れない。従って、いつまでも家内工業の域を脱することができないのである。