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きりゅうつうしん

桐生通信

坂口 安吾

「読売新聞 第二七七五五号~第二八〇二五号」1954(昭和29)年3月11日~12月6日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 16,394 字 · 33 页

青空文庫

そしてとうとう七、八百万がとこ隠匿財産を白状したが、翌朝病気だから医者へ行かせてくれと監視人につきそわれて外出、警察へ駆けこんで保護をもとめた。その後、この事件はつるし上げ側の行過ぎ、人権侵害という問題に発展した。

つるし上げはたしかに行過ぎだがここに私が一つ納得できないことがある。それは彼らが告訴をしない申合せをしなければならなかった同情すべき事実についてである。告訴すれば不渡手形発行の罪によって懲役一年たらずの罪人を製造するが、かたられた金は戻ってこないからである。S君は告訴されることを期待していた模様であった。そしてちょっと服役することによってまんまとデフレを活用しうる予算であったらしい。しかるにシシフンジンのつるし上げにかゝり七、八百万がとこ白状せざるを得なくなってしまった。もしも法律というものがS君の隠匿財産をあばいて被害者に返してやることができるなら人権侵害もあるだろうが、単に罪人をつくるだけで実利は罪人に属すというのでは、悪人栄え、正直者は泣き寝入りの一途ではないか。法律自身のぬけ道や不備や無力さをまず猛省すべきであろう。

私にこの事件の裏話をいろいろ語ってきかせた消息通は、突然言葉をかえて私にこんなことを言った。