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きりゅうつうしん
桐生通信
「読売新聞 第二七七五五号~第二八〇二五号」1954(昭和29)年3月11日~12月6日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 16,394 字 · 33 页
「キミはこの町の人々がどんなことを望んでいるか知っているかね」
「知らないね」
「まず百人のうち九十人までは夕食後のひとときを自宅の茶の間でテレビをたのしむような生活がしたいと望んでいるのだよ。ところがテレビは二十万円もして手が出ないから、ビールかコーヒーをのんで喫茶店のテレビでまにあわせたいが、その金も不足がちだ。そこでテレビの時間になると子供遊園地が大人で押すな押すなだよ。無料のテレビがあるからさ」
ちまたの消息通だけあって、うまいことをいう。これは桐生に限らないだろう。日本人の多くの人々がせめて自宅の茶の間でテレビをたのしむ生活がしたいと考えているに相違ない。しかし思えば文明も進んだ。自宅に好むがままの芸人や競技士をよんで楽しむことができたのは王侯だけであったが、いまやスイッチをひねるだけで王侯の楽しみができる。天下の王侯も今ではたった二十万円かといいたいが、あいにく拙者もまだ王侯の域に達していないのである。
「数年のうちにすべての家庭にテレビを」
と約束してくれるような大政治家が現われてくれないものかと思う。民衆の生活水準を高めることを政治家の最上の責務と感じる人の出現ほど日本に縁のなかったものはない。