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くわのきものがたり

桑の木物語

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页

青空文庫

か」などとうさん臭そうに云うだけであった。

悠二郎のほうでもだんだんこつを覚えてきて、その頃からは罰をくうようなことも少なくなったが、その代りほかにひとついやなことが始まった。それは新泉小太郎との対立である、――はじめはそんな者のいることなどまったく知らなかった。みんなうすのろのとんかちだと思っていたが、花田先生から自分と並べてその名を聞かされて以来、いったいどんな野郎だろうと注意するようになった。

……そいつはまるっこい躯で、頬ぺたが赤くて、眉毛と口のいやにきりっとした、なかなか男前なようすをしていた。いつも唇を固くむすび、しんとしたような眼で先生の講義をじっと聞いたり、おちついたいい声でいやに上手に本を読んだりした。

「結構です、たいへん結構です」

先生はみんなにこう云って褒めた。どの先生も小太郎がひいきらしい。

「これは新泉の書いたものだが、字というものはこう書かなくてはいけない、順に廻してよく見ておくがよい」

そんなことが毎日のようにあった。父親の新泉宗十郎は次席家老だそうで、だから先生たちは特にひいきをしているんだ。こう思ってみたが、花田先生の云ったことが頭にひっかかって、どうにも気になってしかたがない。