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くわのきものがたり

桑の木物語

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页

青空文庫

三

と命じた。ちえっ、また残されか。こう思って、うんざりして、机の前に独りぽつんと残っていた。――すると、やがて花田先生が来て、菓子の入っている鉢をそこへ出しながら坐った。

「露月堂の栗饅頭だ、喰べろ」

そして自分がまず一つ取った。悠二郎はごくっと喉が鳴り、口の中へなまつばが出て来た。しかし黙って、そっぽを向いていた。

「私はもう明日から授業をしない、二三日うちに国許へ立つんだ、――おまえともお別れなんだから、一つ喰べて呉れ、それから話すことがある」

三

「喰べたくありません、饅頭なんか、だい嫌いです」

そっぽを向いたままこう云った。花田先生は手に取った饅頭を鉢へ戻し、暫くこっちの顔を見ていたが、やがて、「よし」と頷いて坐りなおした。

「私はもう少しおまえの面倒をみたかった、いまおまえを置いてゆくのは残念なんだ、おそらく普通ではおまえのいいところがわかるまい、ただ手に負えない悪童ぐらいにみられるだろう、それがこころ残りなんだ」

先生はこう云って少し声を低くした。

「これはまだ極秘のことなんだが、おまえは近いうちに若君の御学友にあげられる筈だ。あがる者は七人いるが、そのなかでおまえと新泉小太郎の二人には、私がいちばん望みをかけている、おまえと新泉は、それぞれの能力で若君のお役に立って呉れなければならない、ほかの者とは違う