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くわのきものがたり
桑の木物語
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页
彼は小鮒を五尾と川蝦を三つばかり獲った。若君にはまったく初めての経験で、そのときはただ驚くばかりだった。眼をまるくして、ばかにでもなったような顔をしていた。
その翌日のことであるが、遊び時間になると若君が彼を呼んで、「若のところにも魚がいるよ」と云った。そこでいっしょにいってみると、小さな泉水に金魚が泳いでいた。――それはらんちゅうとか獅子頭とかいう例のぶざまなやつで、父の献上したものだということがすぐにわかった。悠二郎は急にきな臭いようないやな気持になり、脇のほうへ唾を吐いて、ちえっこんなの、と、しかめ面をして云った。
「こいつらはみんな片輪者ですよ、女の観るもんだぜ、こんなの面白いのかな、なっちゃねえな」
若君は途方にくれたような顔で、しょげていた。
二日ばかりして、彼はまた若君をさそってしゃくいにいった。三度めには若君のほうからゆこうと云いだした。面白くなったらしい、笠木塀を乗り越えるのも、台地を跳び下りるのも、番人が来たときの隠れ方も、だんだんいたについてきたし、自分でも流れにはいってしゃくうようになった。
「本当はこんなもんじゃないんだぜ、橋場の川へゆきゃあ鮠だの鯉っ子だの、こんなでけえのが山と獲れるんだぜ――おれなんか綾瀬川でなんべんも鯉を釣っちゃった」