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くわのきものがたり

桑の木物語

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页

青空文庫

とみなければならぬ」

そこで問題になるのは継嗣のことである。六万三千石の所領と、家名血統と、ひいては全家臣たちのためには、どうしても世子がなくてはならない。少しは愚かであろうと、弱かろうと、世継ぎだけは必要なのである。

「そんなばかなことがあるもんですか、幾らお世継ぎが必要だからって、そんな、――それじゃあまるで若さまのお命を、短いうえに短くするようなものじゃありませんか」

「人間は生きた年数だけで長命か短命かがきまるものではない」

昂奮している悠二郎を見て、虚木老はなだめるかのようにこう云った。

「土蔵の中で百年生きるのと、市中で三十年生きるのと、その経験したことを比較してみるがいい、どちらが長く生きたことになるか、――悠二郎、わかるだろう」

「いいえ、わかりません、それが若さまとなにか関係があるんですか」

虚木老は苦笑して、勘のにぶいやつだと呟き、わからなければよく考えろと云った。

正篤は表御殿へ移り、お相手役は解かれて、悠二郎と新泉とくいしんぼうの原と、三人があらたに側扈従となった。――悠二郎はその当座しきりに、正篤に向ってそれとなく早婚のよくないことを説いた。