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くわのきものがたり
桑の木物語
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页
母が側からそうとりなした。しかし悠二郎は黙って、頭を垂れて、じっと身動きもしなかった。
「お祖父さまがあまやかして育てたからこのような無埒なことをする、おまえも今年はもう二十一歳ではないか、まして部屋住の身であれば、いっそう身を慎み行いを正さなければならぬ、十日のあいだ部屋を出るな、謹慎を申しつける」
彼はついにひと言も云わず、十日のあいだ部屋に籠っていた。このあいだつねに正篤の健康のことが頭にあったらしい、ときに兄と顔が合ったりすると、殆んど無意識にきいた。
「殿のごようすはどうですか、ずっとお丈夫ですか、病気などのごようすはありませんか」
しかしそうきいたとたんに、よけいなことと思い、自分で自分に腹を立てた。
「ずっと御健康のようだ、このごろは少しお肥りになったようにみえる」
そんなことを聞かされても、彼はもうどっちでもいいとそっぽを向き、ふきげんになって兄の側から離れるのであった。
十日の謹慎が解けた日、必要な身まわりの物を持って、二度と帰らないつもりで、彼は家を出て舟仙へいった。
「暫く厄介になるよ」
こう云って二階の端の、いつもの四帖半へおちつき、二三日は酒びたりになっていた。