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くわのきものがたり

桑の木物語

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页

青空文庫

こう云って正篤は立ち、裏庭のほうへまわっていった。ついてゆくと、見覚えのある桑の木の前で立停り、こちらへ振返った。

「数えてみろ悠二郎、二人の桑だ」

すぐにはその意味がわからなかった。しかし木の数を読んでゆくうちに、古い記憶がはっと思いうかび、危うく声をあげそうになった。――そうして一つ一つ、桑の木に手を触れながら、三十八本まで数え終ると、もはやがまんが切れ、そこへ棒立ちになって面を掩った。

「おれのと、おまえのと、毎年二本ずつ、あれからずっと、欠かさず植えてきた」

「――――」

「夏になって、実が生ると、おれは独りで此処へ来て、おまえに呼びかけながら、この実を摘んで喰べた――この実で酒を醸して、おまえに呼びかけながら、更けた寝所で独りそっと飲む癖もついた、おまえはいつもおれの側にいたのだ、わかるか、悠二郎」

悠二郎の喉から嗚咽が堰を切った。すると正篤が近寄り、彼の手を取って、そうして自分も噎びあげた。

――会いたかったぞ、悠二郎。

――殿、お会いしとうございました。

握られた手から手へ、互いのおもいは痛いほど鮮やかに通じ合った。やがて正篤は「もういい、もうこれでいい」