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うめづしえんおうでん

梅津只円翁伝

杉山 萠円

「福岡日日新聞」1934(昭和9)年4月14日~5月31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,582 字 · 130 页

青空文庫

画に於ける仙崖、東圃、学に於ける南冥、益軒、業に於ける加藤司書、平野次郎、野村望東尼は尚赫々たる光輝を今日に残している。しかも我が梅津只圓翁の至純至誠の謙徳は、それ等の人々よりも勝れていたであろうに、何等世に輝き残るところなく黙々として忘れられて行きつつ在る。

繰返して云う。

現在の日本は維新後の西洋崇拝熱から眼ざめつつ在る。国粋万能を叫ぶ声が津々浦々に満ち満ちて、今まで棄ててかえり見られなかった郷土の産物、芸術が、国粋の至宝として再認識され、珍重され初めつつ在る。能楽の如きも老人の閑技、骨董芸術として、忘却されていたものが、明治の末年頃から西洋人の注意を惹いて以来、日本の識者間に再認識され、騒がれ初めた。そうして現在の民族芸術尊重熱の炎波に乗って唯一無上の国粋芸術として一般の知識階級、学生層に洪水の如く普及しつつある。

梅津只圓翁はこの時代を見ずして世を去った。しかも維新後、能楽没落のただ中に黙々として斯道の研鑽を怠らなかった。東都の能楽師等が時勢の非なるを覚って、装束を売り、能面を売って手内職や薄給取りに転向している際にも翁は頑として能楽の守護神の如く子弟を鞭撻し続けていた。