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ばいしのつえ
梅颸の杖
吉川 英治
「文藝春秋 オール読物号」1930(昭和5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,966 字 · 32 页
梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)はもう、ふたりの孫と、嫁の梨影女にとりまかれて、土産物をならべるやら、辰蔵を膝に抱きとるやら、他愛のないしゅうとご様であった。山陽は、家に帰るとすぐに、書斎にはいって、そこの静かに無事なのを見ると、自分の坐り所に坐ったような安易を感じた。
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『わしは果報すぎるようじゃ。なんぼでも、冥利がつきましょうぞ』
梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)は、よくそう言った。
三本木のわが子の家に着いてから、すぐその翌日、家族づれの嵐山の花見を皮切りにして、夏から秋への半年の間は、殆ど、毎日のように、諸処の見物と招待に暮れた。
柏葉亭の宴は、ことに楽しかった。自分がもてなされることよりも、近畿洛中の名ある人々から尊敬にとり巻かれている山陽を見るのが欣しかった。
『襄よ、襄よ』
来るにも帰るにも、彼女は彼をそう呼んだ。
それと、国元からたずさえて来た象牙がしらの杖も、常に、梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)のいるところには必ず従いていた。人々は、春水の遺品であろうと言い合った。