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ばいしのつえ
梅颸の杖
吉川 英治
「文藝春秋 オール読物号」1930(昭和5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,966 字 · 32 页
旦那がたから聞けば、つまらない話でしょうが、その中で生きるあっし共にとってみれば、捨てられない意地でしてね』
『面白いな』
山陽は興につられて――
『それを話すために、わしを待っていたのか』
『ご冗談でしょう、そこまでの道楽気はありませんや。実あ、先生に一札書いて貰いたいものがあるんで』
『詩か』
『そんな物は、ごまの蠅にゃ、用のねえしろ物です。あっしが書いて貰いたいというなあ、その杖を確かに盗まれたという証文なんで。どうでしょう、書いてくれますか。書いてくれなけりゃ、又どこかでその杖を盗んで持って行きますぜ』
山陽は、ごまの蠅の顔を沁々と見ていたが、どうにも憎めない男だと思った。
それに、言うことが面白い。
『よろしい、書いてやろう。理由を話せ。何しろ、この杖をお前に盗まれちゃ困るからな』
彼も、磊落にくだけて言った。
『こうなんでさ、ざっとした所が』
と、ごまの蠅が話し出すのである。
×
室の津の港に、五六人のごまの蠅が、干鰯のように砂地で転がっていた。そして、品のよい老女が通るのを見つけて、賭をした。
『あの杖が盗れるか』
と、ひとりが言い出したのに始まって、