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かんおけのはなよめ
棺桶の花嫁
海野 十三
「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页
杜はお千の手首を色の変るほどギュッとつかんで、サッサと歩きだした。杜のこの突然の変った態度を、お千はどう理解する遑もなく引張られていった。手首は骨がポキンと折れてしまいそうに痛んだ。その痛みが、彼女の身体に、奇妙な或る満足感に似たものを与えた。お千は引摺られるようにして、でも嬉しくもなさそうに眼を細くして、杜の云いなり放題にドンドン引張られていった。杜は柳島までも行かなかった。丁度吾妻橋と被服廠跡との丁度中間ほどにある原庭町の広い焼け野原のところ――といっても町名は明かではなく、どこからどこまでも区切のない茫漠たる一面の焼け武蔵野ヶ原であったけれど――この原庭と思われる辺に来て、杜は不図足を停めた。
「この辺がよかろう」
杜は誰に云うともなくそう云った。
側らには小さな溝が、流れもしないドロンとした水を湛えている。それから太い大樹の無惨な焼け残りが、まるで陸に上った海坊主のような恰好をして突立っている。なんだか気味のわるい不吉な形だった。すこしばかりこんもりと盛り上った土塊や、水の一滴もない凹み、それから黒くくすんでいる飛石らしいのが向うへ続いて、賑かに崩れた煉瓦塀のところまで達している。