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かんおけのはなよめ

棺桶の花嫁

海野 十三

「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页

青空文庫

しかしそれが今の二人には堂々たる財産なのだった。

「あんた、お金持ってないの」

「うむ。――少しは持っているよ。三円なにがし……。なんだネお金のことを云って」

「あたしはもうお金がないのよ、ずっと前からネ。それであんたお金持っているんなら、蝋燭を買わない。今夜から、ちっと用のあるときにつけてみたいわ」

「なァんだ、蝋燭か。君は暗いのが、こわいのだな」

「こわいって訳じゃないけれど、蝋燭があった方がいいわ」

「よし、とにかく買おう。じゃこれから浅草まで買いにゆこうよ」

もう日暮れ時だった。

二人は吾妻橋を渡って、浅草公園の中に入っていった。仲見世はすっかり焼け落ちて、灰かきもまだ進まず、殆んど全部がそのままになっていた。ただ道傍や空地には、カンテラや小暗い蝋燭を点して露店が出ていた。芋を売る店、焼けた缶詰を山のように積んでいる店、西瓜を十個ほど並べて、それを輪切りに赤いところを見せている店、小さい梨を売る店――などと、食い物店が多かった。

蝋燭は、仁王門を入ったところの店に売っていた。杜はお千と相談して、五銭の蝋燭を四本と、その外に東北地方から来たらしい大きな提灯一個八銭とを買った。