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かんおけのはなよめ

棺桶の花嫁

海野 十三

「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页

青空文庫

吾妻橋は直したと見えて、昨日よりも遥かに安全に通りやすくなっていたが、それでも提灯の灯があればこそ僅かに通れるのであった。しかし夜のこととて、壊れた橋の態やら、にごった水の面などが見えなくて、かえってよかった。

橋を渡りきって、石原の大通りを二人が肩を並べて歩いているときのことだった。

「ねえ、あんたァ。あたしどうも辺なのよ。またおしもに行きたくなった」

「フフン、それはビールのせいだろう」

「いいえ、けさからそうなのよ。とてもたまらないの。また膀胱カタルになったと思うのよ。――」

とまで云ったお千は、急に身体をブルブルッと慄わせた。そして彼に急を訴えると、その場にハタとしゃがんで、堤を切ったような音をたてて用を達した。杜は提灯片手に、その激しい音を聞きながら、あたりに注意を払っていた。――お千は絶対無我の境地にあるような姿勢をしていた。

杜はその夜、小屋にかえってから、遂にお千の身体を知った。

志操堅固な杜だったけれど、どういうものかその夜の尿の音を思いだすごとに、彼はどうにも仕方のない興奮状態に陥ってしまい、その後もその度に、彼は哀れな敗残者となることを繰りかえした。