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かんおけのはなよめ
棺桶の花嫁
海野 十三
「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页
十七日から、彼は丸の内へ出勤することになった。商会は焼け跡に、仮事務所を作り、再び商売に打って出ることになったからである。
「ね、早く帰って来てネ。後生だから……」
とお千は杜の出勤の前に五度も六度も同じことを繰返し云った。
「うん、大丈夫だ。早く帰ってくる。――」
そういって出かけたが、彼の帰りは、いつも日暮時になった。
お千は門口に彼の帰ってきた気配がすると、子供のように小屋の中から飛んで出て来た。そして半泣きの顔にニッと悦びの笑みを浮べ、そしてその後で決ったように大きな溜息をつくのであった。いつもきまってそのようであった。
「きょうネ」とお千は或るとき彼を迎えて夕炊の膳を囲みながらいった。
「ホラこの前吾妻橋の上で行き会ったあんたのいいひとネ。あの女学生みたいな娘がサ、向うの道を歩いていたわよ。あんた嬉しいでしょう。――まあ憎らしい」
などといって、はてはキャアキャアふざけるのであった。
またその後の或る日の出来ごとだったが(後で考えるとそれは二十三日のことだったが)彼が会社から帰ってみるといつもは子供のように胸にとびついてくる筈のお千が、迎えに出もせず、小屋のなかに蒼い顔をしてジッと座っているのを発見した。