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しいのき
椎の木
豊島 与志雄
「赤とんぼ」実業之日本社、1946(昭和21)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,002 字 · 13 页
――なんだか、あやしいぞ。どうもそうらしい。あ、そうだ。これはいけない。
大きい鼠は一声たてて、逃げだしました。小さい鼠もそれにつづきました。
そして二匹の鼠は、いっさんに、がけの下へかけおりて姿をかくしてしまいました。
そこへのっそりと、一匹の三毛猫がやって来ました。椎の木の根のあたりをうそうそとかぎまわりました。
――これはおかしいぞ、こんなところに、鼠がいるわけはないが、どうも鼠くさい。おれが退屈してるように、鼠も退屈して、こんなところへ出て来たのかな。それにしても、俺が来たからって、逃げなくてもいいんだがなあ。俺はちょっとふざけてみせるだけで、鼠なんか食やしない。猫はそのあたりをかぎまわって、それから、落葉の上にねそべりました。
――鼠でてこい、鼠でてこい。いっしょに遊ぼうよ。
そんなことをぼんやり考えながら、猫は眼をほそめて、うっとりと眠りかけました。春の日があたたかくさして、落葉の上はよい心地でした。
やがて、遠い人声に猫はすこし眼を開きました。
青い大空に、なにか一筋、ほそいものがかかっていました。たいへん高いようでもあれば、すぐ低いようでもありました。