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つばきのはなのあか

椿の花の赤

豊島 与志雄

「公論」1940(昭和15)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,755 字 · 22 页

青空文庫

」

「そんなことはありません。絶対にありません。けれど、もしそうなった場合は、困ります。」

「なあに、結婚しさえすれば、大いに国策に沿うわけじゃないか。」

「それは別箇の問題です。」

その、別箇の問題から、話は沢子のことを離れて、急に飛躍してしまった。

「杞憂と事実の問題だよ。」と私は云った。

「そんなら、杞憂と事実とを何が区別してくれるんでしょう。」

「初めから区別は出来なくても、それは、現実そのものが処理してくれるよ。その現実の処理を先見することだね。」

「先見がそのまま杞憂になることだってありましょう。現実は気まぐれで、ちょっとした機縁でどっちへ進むか分りません。だから、現実を指導することが必要で、現実の処理に任せておけないんです。」

「それは循環論だよ。」

「そうです。すべてが循環論法で進んでゆきますから、そのどこかに終止符を、基点を据えなければなりません。私は指導のところに基点を置きます。それだけの誇りを持ちたいんです。だから、李の所謂公の立場というもの、公の立場の最も完全なものは機械だという説を、一応認めながら、賛成しかねるんです。あんな説を押しつめれば、人間から精神力を奪うことになります。