轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

くすのきのはなし

楠の話

豊島 与志雄

「文章世界 第拾四卷第四號」博文堂、1919(大正8)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,820 字 · 22 页

青空文庫

ふと自分を呼ぶような声がしたので、私は急いで階下に下りていった。父は床に寝たまま眼を閉じていた。私は暫くその枕頭に坐っていたが、父は何とも云わなかった。それで立ち上って、縁側に出て鯉に餌をやった。鯉は水面に入り乱れて餌を食った。それに見入っていると、いつのまにか父も起きて来た。そして自分でも餌を投げてやった。ふと顧みると、父は眼に一杯涙をためていた。そして私に顔を見られると同時に、涙をはらはらと落した。私はどうしていいか分らなかった。やたらに餌を池に投り込んだ。

その時母がやって来た。

「そんなに沢山やってどうしたのです。」と母は云った。

私はそれで力強くなった。母の顔はいつものように蒼かったが、きっと引緊っていた。あの日楠を背にして立っていた父の顔のように荘厳だとさえ私には思えた。

母は父をまた寝るようにすすめた。父は云わるるままに床の中に身を横たえた。

楠を倒してその根まで掘り取るのに三日かかった。その間私と母と父とは沈黙がちな日を送った。村の人はもう誰も来なかった。ただIが一人来て万事の世話をしてくれた。彼は楠の方へ殆んど行きっきりで人々を指図していた。