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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年9月~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,519 字 · 67 页
九
「お玉ヶ池の話にはあとがあるんだよ」と隠居は云った、「知っているかね」
「いいえ存じません」
「お玉という娘はたいそう美人で、多くの男たちに云いよられたが、誰にも心を動かされなかった、すると」そこで急に、隠居は細い顎を摘んで、思い返したように首を振った、
「いや、この話は陰気だからよしたほうがいいだろう、おまえさんにもあと味が悪いだろうからな」
「半分うかがっただけでは却って気になりますわ」
「かもしれないな、話してしまおう」と隠居は苦笑した、「で、そのうちに二人の若者があらわれてお玉に恋をした、どっちもいい性質の若者で、お玉のほうでも好きになったが、二人のうちどちらを選ぶこともできない、若者たちの恋はいのちがけだし、お玉も悩むだけ悩んだが、どうしてもこの一人ときめることができず、ついに池に身を投げて死んでしまったそうだ」
昔その付近には桜が多く、池も桜ヶ池と呼ばれていたのを、そのことがあって以来「お玉ヶ池」というようになったのだ、と老人は語った。
九
同じような物語はほかにもある。真間の手古奈の話などはそっくりだ、とさわは思った。たぶん一つの美しく悲しい出来事が、いろいろな土地に移し伝えられたのであろう。