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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年9月~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,519 字 · 67 页
一
一
さわが十三になった年、国吉が下男に来た。国吉は十五歳で、よく働く少年だったし、二年のち、二人は愛し合うようになった。
さわの父は河見半左衛門という。母の名はわか。さわの下に一つ違いの妹なかと、その三つ下に丈二という弟がいた。河見家は七代まえに苗字帯刀をゆるされ、代々七カ村の庄屋を勤めていた。「榎屋敷」と呼ばれるその家は葉川村の段丘の上にあり、ほぼ南北にのびる越後街道と、魚野川が眺められ、白い土塀をまわした広い屋敷の東南の隅に、樹齢五百年以上といわれる榎が、ぬきんでて高く梢を伸ばし、枝をひろげていた。
葉川村は越後のくに小出の郊外で、越後街道に面し、また会津若松へ通ずる六十里越えの山道が、うしろにのびていた。街道を往き来する人たちや、六十里越えをする人たちにとって、河見家の大榎は眼じるしの一つであり、それが見えると、ようやく小出の宿の近いことを知り、あるいは名残りであることを知るのであった。
小出は会津藩に属し、その代官所がある。絹と木材の集散地で、河見家でも広い木山を持っているため、庄屋のほかに藩の山方の差配を命ぜられてい、屋敷のまわりには樵たちの長屋があった。