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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年9月~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,519 字 · 67 页
尤もなことであった。
「仰しゃるとおりだと思います」さわは答えた、「あなたのお心にそむきながら、一方ではお世話になり続けてまいりました、いつかこういう噂が出るだろうと、考えなかったあたしが悪かったのです、もし責任があるとしたらこのさわ一人にあるので、大旦那やあなたにはお詫びの申上げようもございません」
「私はあやまってもらうために来たんじゃありません」
「わけを申上げます、聞いて下さいますか」
安二郎は頷き、さわは話した。自分の生い立ち。山猿と呼ばれた国吉の人柄。二人がお互いにちかづいたきっかけや、榎の下で忍び逢ったこと、やがて雇人にみつかり、国吉が「ぬすっとより悪いやつだ」と罵られて放逐されたこと。二人でひそかに逢って、将来を誓いあったこと、また、山津波のあった日に国吉から手紙が来たけれども、父の手にはいって破棄され、自分は読まなかったことなど、詳しくうちあけた。安二郎は終りまで黙って聞いてから、非難するようにではなくさわを見た。
「それはあなたが十五のとしだったと云いましたね」
「約束をして別れたのは二年あとで、あたしは十七、あの人は十九になっていました」