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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年9月~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,519 字 · 67 页
十一
「しかし事情をはっきりさせなければ、世間の噂を止めることはできませんよ」
「あたしがいなくなってもでしょうか」
「いなくなるとは」
「どこかよそへいってしまえば、噂もしぜんに消えると思いますけれど」
「それはおかしい、あなたがよそへいって、国吉という人が来たらどうするんです」と安二郎が云った、「そのときのために、これまで榎の側をはなれなかったんでしょう、いまになってよそへゆくくらいなら、私と結婚するのも同じことじゃありませんか」
よそへゆくにしても、この街道ははなれない。越後街道をはなれずにいれば、あの人が来たとき逢えるだろう。おすげさんが健次という人をみつけたように、どちらかでお互いをみつけるに違いない。
そう思ったけれども、さわは口に出しては云わず、とにかく二三日考えさせてくれと答え、安二郎は「では二三日ですよ」と念を押して去った。
十一
これまでどうしようもなかった気持が、二三日考えただけでどうにかなるとは思わなかった。安二郎のようすが圧倒的で、のっぴきさせないというふうな感じだったから、いっときれに云ったまでであるが、するとその日の午後、もう陽が傾きかけたじぶんに、野だての席へ足助がやって来た。