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えのきものがたり

榎物語

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年9月~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,519 字 · 67 页

青空文庫

「どうしてまたあなたは、このあたしをその人だと思ったのです、人の話でも聞いたんですか」

「いいえ」足助は首を振った、「この大榎でひょっと思いだしたのです、これは河見さまのお屋敷の中にあったものですからね、その下で茶の接待をしているとすれば、おさわさんに相違ないと思いこんじまったんです」

このまえには、遠くから見ただけだったが、急にまたそのことが気になりだし、暇ができたので慥かめに来たのだ、と足助は気ぬけのしたような口ぶりで云った。さわはもう聞いてはいなかった。国吉と佐平とが同一の男であり、自分と二度か三度会ったという。それが事実かどうか、いつごろのことか知りたいと思った。そんなことがあろうとは信じられない、足助が誰かに騙されているか、とし老いて頭がどうかしてしまったのではないか。そう疑ってみるあとから、真実らしい、という感じが増してゆくようであった。

「もし事実だとしたら」とさわは自分に問いかけた、「それはどういうことだろう、あたしはどうしたらいいのだろう」

まず事実かどうかを慥かめることだ、とさわは心をきめた。足助が去り、道具を片づけて家へ運び終ると、その足でさわは角庄へいった。