轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页
それから約一刻のち、甲斐は常着のまま、袴もはかず、編笠をかぶった姿で、長徳寺の門前で茂庭主水とおちあった。主水も単衣の着ながしで、やはり編笠をかぶり、片手に釣竿と餌箱を持っていた。――そこは広瀬川の南岸で、うしろには丘陵が重なっており、その裾にそって、長徳寺、大満寺、虚空蔵などの寺があり、もっと先には誓願寺があった。川に沿った道は土地が高く、崖の下のほうから、川の瀬音といっしょに涼しい風が吹きあげて来た。
陽は山のかなたに隠れたが、空はまだ明るく、対岸の武家屋敷のうち重なった屋根や白壁が、いかにも残暑にうだっているように眺められた。
「父は私に遺書をのこしました」と主水が静かに云った、「それでいちどおめにかかりたいと思っていたのです」
「会えと書いてありましたか」
「そうではありません」主水はそこでちょっと口ごもった、「あなたに悪評が立ち、不審と思えるようなことがあっても、あなたを信じておれ、そして、もしもあなたからなにか頼まれたら、一命を賭してやれ、というような意味でした」
甲斐はゆっくりと首を振り、暫くのあいだ黙って歩いた。主水はそっと甲斐を見た。