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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

冬の章

虎之助は十三歳のとき得度受戒して玄知という名をもらい、増上寺の学堂でまなんでいた。初めはどうかと案じられたが、彼はまっすぐに仏教へはいってゆき、学堂での成績も良いほうなので、こんど選ばれた七人の内にはいった。二人は叡山、三人は高野、二人は永平寺という割当てで、玄知は叡山へゆくことになったのである。

姉弟が別れてから九年経つ。宇乃は二十四、彼は十七歳になっていた。育った環境のためか、それともそういう年頃のせいか、久しぶりに会ったのに少しもうちとけず、いっしょに三日すごすあいだ、話しらしい話しもしなかった。尤も彼には勤めがあるし、宇乃は日本橋の雁屋に泊っていて、昼のうちしか会いに来られないから、ゆっくり話すだけの時間もなかったのであるが。――ただ一つだけ安心したことは、両親の死や、姉と別れた生活が、彼に悪い影響を与えていない。少なくとも現在はそういうものが認められない、という点であった。幼ないころから、顔も躯もまるまるとしていたが、疱瘡も麻疹も軽く済んだそうだし、風邪で寝たこともないという。背丈は五尺六寸、骨太で肉付が逞しく、鉢のひらいた大きな坊主頭など、荒法師といった感じであった。