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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

舎人がなにか云おうとしたとき、辻村又之助と堀内大助とが食事を運んで来、甲斐はそれを舎人の前に並べさせた。焙り直した鮎に煎鳥、吸物に甘煮、香の物という膳で、酒が付いており、甲斐がいちどだけ酌をしてやった。堀内大助が給仕をし、舎人はゆっくりと、飲みながら食事をした。

「十左には七十郎の死がこたえたようだ」と甲斐は云った、「顔が合いさえすれば、二人はよく口論をした、七十郎はからかうのがうまいし、十左はすぐむきになる、赤くなって怒ると、七十郎は面白がってますますからかう、いつもきまって喧嘩になるが、あれほど仲のいい伴れも珍らしかったろう、いまでも眼に見えるようだ」

今日、むざんにやつれた十左を見て、七十郎の死がいかに大きな痛手だったかということがわかった。そういう甲斐の話しを聞きながら、舎人は心の中で感謝した。甲斐がいっているのは、十左と七十郎のことではなく、自分が不当な罪で罰せられたこと、またそれを防げなかったことについて詫びているのだということがわかるのである。口に出して詫びなどを云われたら、返辞のしようもないし、おそらくいたたまれなくなるだろう。甲斐はそれをよく知っていて、その気持をまったく無関係な話しに託しているのだ。