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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页
はございませんか」
「それは、そのとおりだ」
「ではなぜ、そうして下さらないんですか」
「もういちど訊くが、おまえが心配しているのは私の死ぬことだろう」甲斐は穏やかに微笑しながら云った、「私が誰かに殺されはしないか、という心配で怯えている、たしかに、そのおそれがないとは云わないが、人間は女とひとつ寝をしていて死ぬこともあるんだよ」
「あなたはすぐそんなふうに」
「いや」と甲斐は静かに首を振った、「これは冗談や軽口ではない、現にあることを云っているんだ、人の死にようはさまざまだ、壮健な若者がはやり病で急死することもあり、おそれ多いが天皇の御子も将軍家の姫君も、天下の名医を集めながら平凡な病気で亡くなることがある、狂人の刃にかかる者もあるし、転んで頭を打っただけで死ぬ者もある、私はいちど闇討ちをかけられたが、けがもせずに助かった、もし私に寿命があるなら、幾たび闇討ちをかけられてもやすやすと死ぬことはあるまい、また、もし寿命の尽きるときが来たら、おくみの寝間で死ぬかもしれないだろう」
「あなたはそういう方よ」とおくみは眼がしらを押えながら、力のない声で云った、「御自分がそのように割り切っているから、女の気持なんか察して下さろうともしないのでしょう、あなたはそういう薄情な方なんです」