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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页
また、綱宗が幕府の命令で、小石川堀の普請に当ったときには、逢春門院から綱宗に、労をねぎらう懇篤な使いがあった。
――宮中からの助力が得られれば、幕府を牽制することができる。
甲斐はそう考えた。
――上皇は綱宗の従兄であり、逢春門院は伯母に当る。
伊達の興廃にかかわる大事だから。事情をつぶさに述べて訴えれば、蔭からの助力を得ることはさして難事ではあるまい。仮に困難が伴うとしても、事ここに到っては、もう他にとるべき手段はない。
「ほかに手だてはない」と甲斐は呟いた、「慥かに、残された手段はこれ一つだ」
綱宗に親書を求めて、一刻も早く京へ急使を出す。これが唯一の頼みの綱だ、と甲斐は思った。
駕籠は下屋敷の手前で停め、甲斐はそこから歩いていった。ところが、門はとおったが玄関で止められた。取次の侍は奥へいったが、出て来たのはべつの侍で、「おめどおりは許されない」と答えた。甲斐は穏やかに、では家老に会おうと云った。下屋敷の家老は去年から高野与惣左衛門が代っていた。
「御家老も多用で」と取次の侍は答えた、「おめにはかかれないとのことです」
甲斐は静かに云った、「言上すべき大事な御用があって伺候した、私には国老の職権がある、高野にそう申してくれ」