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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页
――これが別れだ。
――笑うかもしれないが。
と周防が云った。
――おれがいまいちばん心配しているのは、うまく死ねればいいが、ということだ。
――自然のままがいい。
と甲斐が云った。
――うまく死のうとまずく死のうと、死ぬことに変りはないのさ。
周防は微笑し、じっと甲斐の眼をみつめながら、頷いた。
――ではこれで。
――では、……
それが、二人の会った、最後になった。
周防の死んだのは、正月十一日の朝で、前夜半から二度茂庭の家従から甲斐のもとへ、「危篤」の知らせがあり、甲斐は堀内惣左衛門を代理にやった。惣左衛門は夜明けまで、茂庭家に詰めていたが、臨終が近いといって、七時ころ、甲斐を迎えに来た。
ひと眼だけ、顔を見たい、と仰しゃっています。
どうかすぐいってあげるように、と惣左衛門が云った。甲斐は、いや、と首を振った。周防がそんなことを云う筈はない、別れはもう済んでいる。もしそんなことを云ったとすれば、病毒に頭をおかされたためで、周防の本心ではなくうわ言にすぎない、と甲斐は云った。
――それではあまりです。
と惣左衛門は堪りかねたように、膝を進めて云った。