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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页
「そうだからそうだと云ったまでだ」
「お気の毒ですけれど、殿さまはそんな方じゃありません、お客さんの云うことは、筍笠が冠の悪口を云うようなもんです」
「こいつ」と七十郎は腰を浮かした。
殴りつけようとしたのであるが、手をあげるまえにはっと気がつき、「こいつ」とにが笑いをして、危なくわれを抑えた。ふじこはなんだという眼つきで七十郎を見、それから鼻の頭へ皺をよせた。
「わたしたちが猟小屋へゆくのは夕方です」とふじこは云った、「みんなで酒と肴を拵えて持っていって、酒も手づくりだし、肴も山女魚や鮎や鰍なんかの煮浸しとか、茸とか自然薯とか、野菜の煮たのぐらいで、そこらのちょっとした旦那なんかでも、箸もお出しなさらないような物ばかりですよ、それを殿さまはよろこんで喰べて下さるし、ときには御自分の酒や肴を、わたしたちに分けて下さるというふうです」
「おれは与五の小屋へはいったことがある」
「あのじいさまも、お客さんと同じようなことを考えていたらしいですよ」とふじこが云った、「お客さんも与五のじいさまも、ほかのたいていの人がそんなふうに思っていたようです、殿さまはどこでも女衆に好かれるし、世間の人たちのように、おら女は嫌えだ、なんて顔はなさいませんからね、そうですよ、わたしたちは猟小屋で、殿さまと夜明しで話したこともあるし、並ん