轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页
供をする者たちは列をなしてつくばい、留守の者は式台からそのうしろに平伏した。安芸は振返って、式台にいる亘理蔵人を見、千葉三郎兵衛を見た。千葉は江戸における家老で、まえの夜この麻布へ来たものであった。――安芸宗重は五十七歳であるが、早くから老けていたわりに、いまでは却って若わかしくみえる。小柄な痩せた躯つきだが、日にやけた膚はよくひき緊り、高い頬骨のあたりは精力的に艶つやとしていた。
「蔵人、三郎兵衛」と安芸は二人をみつめながら云った、「――おれはやがて、帰るぞ」
必ず帰って来る、だが生きて帰るか、死んで帰るかはわからぬ。さらばだという意味が、その短い言葉の中に脈を搏っているように感じられた。蔵人は両手を突いたまま見あげてい、三郎兵衛は式台へ額をすりつけるように平伏した。安芸は向き直って、しっかりと歩きだした。
ほぼ同じころ、下馬さきの酒井邸では、常着のままの雅楽頭が、ただひとり客間に坐って、宙を睨んでいた。彼はまえよりも肥えているが、重みと威厳の加わった相貌のためだろう、ぜんたいがひとまわりも大きくなったようにみえる。年は四十八歳。濃い眉とするどい双眸に、いま烈しい怒りがあらわれてい、脂肪のにじみ出る頬は赤く染っていた。