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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

七十郎は暫く黙っていた。

躯の中に溜っていた酔いが、しだいにさめてゆくように思い、それに代って、失望と、力の脱落を感じた。彼は膳の上の盃を取り、手酌で注いで、静かに一と口飲んだ。それから十左を見て、乾いた弱い声で訊いた。

「その裁決は誰がした」

「采女どのが呼ばれて、茂庭主水(周防の子)から申し渡されたということだ」

七十郎は舌打ちをした。

――ぬかりなくやったな。

と彼は思った。

この争いは国老が相手であった。もしも国老から申し渡しがあったのなら、はねつけることができる、争いの原因は国老側の手落ちなので、その相手から罪科を申し渡されるということはない。だが茂庭主水は評定役であり、評定役は争いの外にいたし、申し渡しはその職であるから、文句をつける隙はなかった。

「あとのことを聞こう」と七十郎は云った。

「私から申上げます」と鷺坂靱負が答えた。

采女は小野の館で召し出しを受け、仙台に出て、茂庭主水から裁決を申し渡された。これは三月十一日のことで、次の日に、七十郎といっしょに再出頭せよ、という通告があった。そこで采女は、七十郎がいま湯治にいっていること、自分も所労であるから、七十郎が湯治から戻ったら、同道で出頭すると答え、里見十左衛門を訪ねて相談した。