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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

「すでに国老評定の裁決が出ている、采女どのは逼塞、七十郎は預け者と、正式に裁決が出ているのだ」

「呼びつけて詰腹を切らせるつもりだ、と云ったのは里見老ではないか」

「出頭すればだ」と十左が云った、「出頭すればその危険があると思った、そうではないか」

「かれらが詰腹を切らせるつもりだということは慥かだ」

「出頭しないという方法もある」

七十郎は唇で笑った。十左は、まあ聞け、と云った、「采女どのは所労と届けた、七十郎のことも湯治と答えてある、だから両人とも病気といって出頭を延ばすのだ、いちど裁決が出ているのだから、そうすればかれらも」

「まあ待て、それはおかしい」と七十郎は遮り、唇で微笑しながら、十左を見て首を振った、「それは矛盾する、おくれれば討手をよこす、と云ったのも里見老ではないか、そのとおりだ、延ばすことなどできはしない、仮にできたとしても、涌谷に命乞いをしているのと同様、僅かな時日を生き延びるにすぎない、それはだめだ」

「しかし、時日が経てば情勢の変る望みもあるし、死ぬことだけが侍の面目ではないぞ」

「どうしたのだ」と云って、七十郎はくすくすと笑った、「里見老にも似あわない、急に乳母のようなことを云いだすではないか」