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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页
――兵部刺殺。
ということをうちあけたのは、鷺坂と出雲が去ったあとで、七十郎はそれが、いかにやむを得ないか、ということから話していった。
采女は黙って聞き、黙って頷いた。
彼の顔がやや蒼ざめるのを、七十郎は認めたが、臆したようすは少しも感じられなかった。いきごむようすもなかったが、怯えたりするふうもみえなかった。云われたことをすなおに受取り、そのとおり納得した。よし、と七十郎は思った。
「では寝所へ戻ってくれ」と七十郎は云った、「あとからおれがゆく、そこで詳しい手順をきめよう」
采女は云われるとおり、寝所へ戻った。
七十郎もいちど自分の寝所へはいり、小半刻ようすをうかがってから、采女の寝所へと忍んでいった。采女は起きていた。七十郎のために敷物を直し、雪洞を暗くして待っていた。七十郎は持って来た図面、里見十左衛門の書いた、一ノ関の館の図面をひろげて、手順のうちあわせをした。
采女は立ってゆき、反故紙と、文箱を三つ持って戻った。それから、紙で短刀を巻き、三つの文箱へ入れてみたが、どれも長さが不足で、抜き身のままでなければ入らなかった。七十郎は黙って見ていたが、そこで初めて、そのままでよかろう、と云った。