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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

そこで七十郎は、里見十左衛門と相談のうえ、自分で柴田外記を訪ねた。外記は七十郎を見て、困った男が出て来た、と思ったらしい、けれども会うことは会って、次のように答えた。

――詳しい事情はわからないが、役目のある者を先にし、二人は無役だからあとにしたのであろう。

――では原田帯刀はどうか。

と七十郎は反問した。

――帯刀どのは無役である。役目のある者を先にするというのなら、帯刀どのを先にした理由をうかがいたい。

柴田外記は反問に窮し、それは係りの者に訊くがよい、と答えた。係りとは誰であるか。当日の目付頭だ。今村善太夫か。善太夫ならわかるだろう。そういう問答があり、七十郎は今村善太夫を訪ねた。善太夫が一ノ関の息のかかっている人間だということは、まえから知らない者はない。彼は七十郎の抗議に対して、

――国目付の饗応は臨時のことだから、到着した順にしたがったのである。

と冷淡に答えた。

――それでは柴田どのと口が合わぬぞ。

七十郎は怒って、国老は役目の有無によって順序をきめた、と云ったことを告げた。善太夫は、国老がそう云われたのならそうであろうと、薄笑いをし、もう済んだ事だから、自分にはこれ以上の返辞はできない、と答えた。