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はしのした
橋の下
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,189 字 · 25 页
一人の若侍が、源心寺の土塀をまわってあらわれ、大股にこちらへ歩みよって来た。
「おーい」と彼は手をあげた。
向うの若侍は立停り、こちらを見ると、くるっと羽折をぬいだ。下は白支度で、手早く刀の下緒を外し、それを襷に掛けた。
「待ってくれ」とこちらの若侍は叫んだ、「話すことがある、待ってくれ」
彼は腰から両刀をとり、鞘のまま右腕に抱えて走りだした。
向うの若侍は不審そうにこちらを見た。襷をかけた手の片方は脇、片方は肩のところで、下緒をつかんだまま止め、きびしい眼つきでこちらをにらんだ。
走ってゆく彼の脛のあたりで、靄が尾をひくように巻き立ったが、彼が走りすぎるとすぐにしずまった。彼は相手のところへ駆けより、右の脇に抱えた両刀を見せながらなにか云った。――遠いので言葉は聞えないが、彼は熱心に話してい、相手のきびしい顔つきがほぐれた。そのとき、雲のあいだから陽が横さまにさして、相手の若侍の、逞しい顔を赤く染めた。その若侍は大きく頷き、手を伸ばして、こちらの若侍の肩を叩いた。こちらの若侍はいさましく低頭し、相手は笑いながら首を振って、いまかけた襷を外し、羽折を拾いあげた。